私の名前はくりまろん。38歳。査定士。
そして今日、人生最大の過ちを犯した。
事件発生:午前9時47分
朝。
いつもより早く目が覚めた。
窓から差し込む光が綺麗で、なんだか良い日になりそうな予感がした。
予感は外れた。
クローゼットを開ける。
そこには、3ヶ月前に買った45Rの白いリネンワンピースが掛かっていた。
定価:58,300円。
フランスリネン100%。
職人が一枚一枚丁寧に縫製した、45Rの傑作。
まだ3回しか着てない。
「今日、これ着よう」
そう決めた。
これが、全ての始まりだった。
午前10時12分:運命の瞬間
ワンピースを着て、リビングへ。
夫はすでに出勤してる。
一人の朝。
静かで、穏やかで、幸せな朝。
のはずだった。
コーヒーを淹れる。
いつものドリップコーヒー。
豆は昨日買ったばかりの、エチオピア産。
香りが良い。
カップに注ぐ。
湯気が立ち上る。
美味しそう。
カップを持って、ダイニングテーブルへ。
今日はゆっくり朝ごはんを食べよう。
そう思って、椅子に座ろうとした。
その時。
足が、テーブルの脚に引っかかった。
「あっ」
体が傾く。
手に持ってたコーヒーカップが、宙を舞う。
スローモーション。
コーヒーが、弧を描いて飛んでいく。
行き先は、一つ。
私の胸。
いや、正確には。
45Rの白いリネンワンピースの、ど真ん中。
午前10時13分:絶望
ジャバァァァァ
温かい液体が、胸に広がる。
見る。
茶色。
濃い茶色。
真っ白だったワンピースに、巨大な茶色いシミ。
直径、約15センチ。
日本地図の北海道くらいの大きさ。
「あ」
「ああ」
「ああああああ」
声にならない声が出た。
これ、58,300円なんですけど。
3回しか着てないんですけど。
今日、良い日になるはずだったんですけど。
午前10時14分:第一段階「否認」
まず、現実を受け入れられない。
「夢だ」
「これは夢だ」
でも、コーヒーの温度が現実を教えてくれる。
熱い。
あったかい。
そして、香ばしい。
エチオピア産の良い香り。
そんな場合じゃない。
鏡を見る。
北海道サイズの茶色いシミが、そこにある。
しかも、じわじわ広がってる。
リネンは吸水性が良い。
だから、シミもよく広がる。
北海道が、本州に侵攻してきてる。
午前10時15分:第二段階「怒り」
「なんで!!!」
誰もいないリビングで、叫ぶ。
「なんで今日なの!!!」
「なんで白なの!!!」
「なんで45Rなの!!!」
昨日着てたユニクロのTシャツだったら、こんなに動揺しなかった。
でも、これは45R。
58,300円の45R。
3回しか着てない45R。
怒りの矛先を探す。
テーブルの脚が悪い。
いや、違う。
コーヒーが悪い。
いや、違う。
私の足が悪い。
いや、全部悪い。
午前10時16分:第三段階「取引」
神様に祈る。
「お願いします」
「これを、無かったことにしてください」
「そうしたら、今月のお小遣い全部寄付します」
「ミナペルホネンの新作も諦めます」
「だから、このシミを消してください」
祈り終わる。
ワンピースを見る。
シミ、まだある。
神様、取引決裂。
午前10時17分:第四段階「抑うつ」
床に座り込む。
「もう、終わりだ」
「人生、終わった」
「45Rが、死んだ」
大げさだって?
大げさじゃない。
これは、ただのワンピースじゃない。
3ヶ月前、給料日に買った。
夫に「ちょっと高いけど、いい?」って聞いた。
夫は「自分で稼いだお金だから、好きにして」って言ってくれた。
店員さんに「このワンピース、一生着られますよ」って言われた。
「一生」って言ったじゃん。
3回で終わったんですけど。
床に座り込んだまま、動けない。
時計を見る。
10時17分。
まだ午前中。
でも、今日はもう終わった気がする。
午前10時23分:第五段階「受容」と「行動」
6分間、床に座り込んでた。
ふと、我に返る。
「待って」
「私、査定士じゃん」
毎日、服を見てる。
シミのある服も、たくさん見てきた。
そして知ってる。
コーヒーのシミは、すぐ洗えば落ちる。
まだ、間に合う。
立ち上がる。
ワンピースを脱ぐ。
洗面所へダッシュ。
午前10時24分:戦いの始まり
洗面台に水を張る。
冷水。
お湯はダメ。お湯だとシミが定着する。
ワンピースを浸ける。
茶色い水が、広がる。
まるで、ワンピースが泣いてるみたい。
「ごめん」
「ごめんね」
ワンピースに謝りながら、優しく押し洗い。
ゴシゴシは厳禁。
リネンは繊細。
強く擦ると、生地が傷む。
優しく、優しく。
「お願い、落ちて」
祈りながら、洗う。
午前10時32分:中性洗剤投入
水だけじゃ落ちない。
中性洗剤を投入。
エマールの、おしゃれ着用洗剤。
「これ、買っておいて良かった」
普段は使わない洗剤。
でも、45Rを買った時に「念のため」と思って買っておいた。
今日、その日が来た。
洗剤を少量、シミに垂らす。
指で、優しくトントン叩く。
「落ちて」
「お願い、落ちて」
「58,300円なんだから、落ちて」
値段で説得しようとする私。
午前10時45分:光明
13分間、トントン叩き続けた。
シミが、薄くなってきた。
「落ちてる!!」
「落ちてる!!!」
一人で興奮する。
もっとトントン。
優しくトントン。
愛を込めてトントン。
北海道サイズだったシミが、沖縄サイズになった。
さらに続ける。
淡路島サイズ。
さらに。
小豆島サイズ。
もっと。
…消えた?
午前11時03分:勝利
すすぐ。
何度も、何度も。
コーヒーの匂いが完全に消えるまで。
そして、持ち上げる。
光に透かして見る。
シミ、ない。
完全に、消えた。
「勝った…」
「私、勝った…」
一人で、ガッツポーズ。
45Rを、救った。
午前11時15分:反省会
ワンピースを干しながら、考える。
なぜ、こんなことになったのか。
原因その1:油断
白いリネンのワンピースを着てるのに、コーヒーを飲もうとした。
これが、そもそもの間違い。
原因その2:慢心
「大丈夫、私は慎重だから」
そう思ってた。
慢心が、事故を招く。
原因その3:テーブルの脚
これは、避けられなかった。
テーブルが悪い。
(テーブルのせいにする私)
午前11時30分:夫への報告
夫にLINE。
「今日、45Rのワンピースにコーヒーこぼした」
既読。
返信来た。
「で?」
「洗って、落ちた」
「よかったね」
「うん」
夫、冷静。
私が大騒ぎしてた2時間、夫は何も知らない。
それでいい。
この戦いは、私一人の戦いだった。
午後1時:教訓
乾いたワンピースを見る。
真っ白。
シミの痕跡は、どこにもない。
まるで、何も無かったみたいに。
でも、私は知ってる。
今日、私は地獄を見た。
そして、学んだ。
教訓その1:白い服を着る日は、コーヒーを飲むな
特に、45Rの白い服。
教訓その2:事故は起きる
どんなに注意しても、起きる時は起きる。
教訓その3:諦めるな
シミがついても、すぐ洗えば落ちる。
教訓その4:おしゃれ着用洗剤は常備しておけ
エマール、最高。
教訓その5:45Rは強い
リネンは強い。ちゃんと洗えば、復活する。
さすが、45R。
午後3時:再び
クローゼットに、ワンピースを戻す。
真っ白な、45Rのリネンワンピース。
今日のことを知らない人が見たら、ただの綺麗なワンピース。
でも、私は知ってる。
このワンピースは、今日、死にかけた。
そして、蘇った。
まるで、不死鳥。
いや、不死鳥ワンピース。
ワンピースを撫でる。
「よく頑張ったね」
「また着るからね」
でも、次着る時は、絶対コーヒー飲まない。
いや、飲み物全般、近づけない。
水も危険。
45Rを着る日は、断食する。
それが、今日学んだこと。
夕方:夫の帰宅
夫が帰ってきた。
「お帰り」
「ただいま。で、ワンピースは?」
「完璧に落ちた」
夫、ワンピースを見る。
「…どこにシミがあったの?」
「ここ」
胸のあたりを指差す。
夫、凝視。
「…わからん」
「でしょ?完璧でしょ?」
「頑張ったでしょ?」
「褒めて?」
夫、笑う。
「よく頑張ったね」
頭を撫でてくれた。
「でも、次からは気をつけてね」
「うん」
深夜:ベッドの中で
夫は隣で寝てる。
私は、天井を見つめる。
今日のことを思い出す。
コーヒーが飛んだ瞬間。
絶望した瞬間。
シミが落ちた瞬間。
全部、鮮明に覚えてる。
あれは、人生の一大事だった。
でも、今は笑える。
「私、45Rのワンピースにコーヒーこぼしたんだ」
って、将来笑い話になる。
多分。
いや、当分笑えないかも。
でも、いつか。
そう思いながら、目を閉じる。
明日は、何色の服を着ようか。
白以外で。
written by くりまろん
ナチュラル系ファッション愛好家 / 査定士 / 主婦 / 45Rの白いリネンワンピースにコーヒーをぶちまけて蘇生に成功した女
P.S. 皆さん、白い服を着る日は、コーヒーに気をつけてください。特に、45Rの白い服。本当に。心臓に悪いです。
【シミ落としの教訓】
- すぐに水で洗う(お湯は厳禁)
- おしゃれ着用中性洗剤を使う
- 優しくトントン叩く(ゴシゴシ厳禁)
- 諦めない心が一番大事
そして何より、白い45Rを着る日は、コーヒーを飲むな。これ、鉄則。
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