私の名前はくりまろん。38歳。査定士。
深夜2時。私はパソコンの前で、人類史上最も過酷な戦いを繰り広げている。
画面には二つのタブが開かれている。
左:45R公式サイト 新作インディゴジャケット 72,600円
右:mina perhonen公式サイト chouchoワンピース 68,200円
マウスカーソルが、左と右を行ったり来たりしている。
もう3時間経った。
隣で夫が寝ている。幸せそうな寝息。
彼は何も知らない。今、妻が地獄を見ていることを。
深夜2時:公式サイトという名の沼
45Rの公式サイトを開く。
モデルが着ている。インディゴジャケット。
カッコいい。カッコよすぎる。
このジャケット着て歩いたら、近所の人が「あれ、くりまろんさん、なんか変わった?」って二度見するやつだ。
「いえ、特に何も…(ジャケットが7万円なだけです)」
商品説明を読む。
「日本各地の藍染め職人と出会い、その土地の水、畑、気候が生み出す藍の色を大切にしています」
泣ける。
職人さんの顔が目に浮かぶ。
「わしが丹精込めて染めた藍じゃ…頼む…買ってくれ…」
買う!今買う!!
カートに入れるボタンに手が伸びる。
待て。
ミナペルホネンは、どうする。
タブを切り替える。
mina perhonenの公式サイト。
chouchoのワンピース。蝶々の刺繍。
可愛い。可愛すぎる。
これ着てスーパー行ったら、レジのおばちゃんが「あら、お嬢さん、どこかお出かけ?」って言ってくれるやつだ。
「いえ、豆腐買いに来ただけです」
商品説明を読む。
「2001年初夏コレクションより、皆様に愛されミナ ペルホネンを代表するテキスタイルとなったchoucho」
20年以上愛されてる。
ということは、私が買っても20年愛せる。
いや、30年愛せる。
68歳になっても着る。
老後の楽しみができた。
カートに入れるボタンに手が伸びる。
待て待て待て。
45Rは、どうする。
深夜2時半:電卓との戦い
電卓アプリを開く。
今月の手取り:230,000円
家賃:80,000円
光熱費:20,000円
食費:30,000円
雑費:10,000円
合計:140,000円
残り:90,000円
45Rのジャケット:72,600円
買ったら残り:17,400円
17,400円で1ヶ月…
豆腐と卵で生きる。完全に生きる。
ミナペルホネンのワンピース:68,200円
買ったら残り:21,800円
21,800円で1ヶ月…
豆腐と卵ともやしで生きる。ちょっと贅沢。
どっちを選んでも地獄じゃん。
でも待って。
1日あたりに換算したら…
72,600円÷30日=2,420円/日
ランチ1回分じゃん!!
つまり、毎日ランチ食べるより、このジャケット買った方が合理的!!
この理論、完璧!!
いや、待て。
これ、30日しか着ない計算になってる。
10年着るとしたら…
72,600円÷3,650日=19.8円/日
缶コーヒーより安い!!!
買うしかない!!!
カートに入れようとして、気づく。
ミナペルホネンも同じ計算できるじゃん。
68,200円÷3,650日=18.6円/日
もっと安い!!!
じゃあミナペルホネン買うべき!!!
いや、待て待て。
両方買ったら…
140,800円÷3,650日=38.5円/日
ペットボトルのお茶より安い!!!
両方買うべき!!!!
電卓を閉じる。
数学、役に立たない。
深夜3時:夫の寝言事件
夫が寝返りを打った。
「んー…」
そして、寝言。
「また…買うの…?」
ギクッ。
バレてる。完全にバレてる。
寝てても、妻の気配を察知してる。
これが夫婦か。これが絆か。
怖い。
夫、また寝言。
「まぁ…好きにして…」
優しい!!!
涙が出そうになる。
この優しさに応えなければ。
つまり、服を買わない。
いや、違う。
この優しさに応えるために、いい服を着て、幸せそうな妻でいる。
そうだ、それが正解だ。
だから買う。
夫、また寝言。
「でも…北海道…行きたい…」
あっ。
そうだった。
ボーナス出たら北海道行く約束してた。
服買ったら、北海道行けない。
北海道 vs 服
新たな地獄が開幕した。
でも、北海道は逃げない。
来年でもいい。
再来年でもいい。
でも45Rとミナペルホネンは、今しかない。
売り切れたら終わり。
廃番になったら終わり。
メルカリで倍額になる。
つまり、今買うべき。
ごめん、北海道。
深夜3時半:公式サイト地獄ループ
45Rのサイトに戻る。
ジャケットの写真を、また見る。
やっぱりカッコいい。
拡大写真を見る。
生地の質感。ステッチの細かさ。ボタンの重厚感。
芸術作品じゃん。
これは服じゃない。これは芸術だ。
芸術にお金を払うのは、文化的な行為だ。
つまり、私は文化人だ。
買うべき。
レビュー欄を見る。
「最高の買い物でした」
「一生大切にします」
「藍の色に癒されます」
みんな幸せそう。
私も幸せになりたい。
ミナペルホネンのサイトに切り替える。
ワンピースの写真を、また見る。
やっぱり可愛い。
拡大写真を見る。
choucho刺繍のアップ。一つ一つの蝶が違う表情。
これも芸術じゃん。
というか、これは服を超えた何かだ。
哲学だ。
哲学にお金を払うのは、知的な行為だ。
つまり、私は知識人だ。
買うべき。
レビュー欄を見る。
「着るたびに幸せになります」
「宝物です」
「一生愛せる服に出会えました」
みんな幸せそう。
私も幸せになりたい。
どっちも幸せになれるじゃん!!!
じゃあどっち買っても正解じゃん!!!
でもどっちか選ばなきゃいけないじゃん!!!!
頭を抱える。
時計を見る。深夜3時40分。
もう朝じゃん。
深夜4時:コイントス作戦
そうだ。
コイントスしよう。
表が出たら45R。
裏が出たらミナペルホネン。
完璧な作戦。
財布から10円玉を取り出す。
投げる。
くるくる回る。
その間、私の心臓はバクバクしてる。
「頼む、表が出て!」
あれ?私、45R欲しいの?
「いや、待って、裏が出て!」
あれ?私、ミナペルホネン欲しいの?
「やっぱり表!」
「いや、裏!」
「表!」
コインが手のひらに落ちる。
見る。
表。
45Rだ。
「…」
なんか、釈然としない。
もう1回。
投げる。
裏。
ミナペルホネンだ。
「…」
やっぱり釈然としない。
もう1回。
表。
もう1回。
裏。
もう1回。
表。
気づいたら10回投げてた。
結果:表5回、裏5回
引き分け。
コイントス、意味ない。
深夜4時半:過去の自分からのメッセージ
ふと、クローゼットを見る。
そこには、5年前に買ったミナペルホネンのタンバリン柄ワンピースが掛かっている。
3年前に買った45Rの藍染めシャツも掛かっている。
どっちも、まだ着てる。
どっちも、愛してる。
あの時の私は、正しい選択をした。
じゃあ今回も、正しい選択ができる。
そう思おうとして、気づく。
あの時は、どっちか選ぶ必要なかったじゃん。
ミナペルホネンを買った時、45Rは目の前になかった。
45Rを買った時、ミナペルホネンは目の前になかった。
つまり、選ぶ苦しみがなかった。
今は違う。
両方、目の前にある。
そして、両方買えない。
これは新しい地獄だ。
過去の自分、役に立たない。
深夜5時:悟りの境地(未遂)
もう、疲れた。
こんなに悩むなら、いっそ。
両方買わない。
そうだ、それが正解だ。
欲望を捨てる。
煩悩を捨てる。
私は今日から、仏陀だ。
45Rのタブを閉じる。
ミナペルホネンのタブも閉じる。
スッキリした。
これでいい。
これが正解だ。
服なんて、ユニクロでいい。
GUでいい。
しまむらでいい。
それが、大人の選択だ。
布団に入る。
目を閉じる。
眠れない。
頭の中で、45Rのジャケットが回転してる。
ミナペルホネンのワンピースも回転してる。
両方、回転してる。
これ、回転寿司より地獄。
布団から出る。
またパソコンの前に座る。
45Rのサイト、開く。
ミナペルホネンのサイト、開く。
仏陀、3分で終了。
深夜5時半:啓示
もう、限界だ。
理屈じゃない。
計算でもない。
コイントスでもない。
仏陀にもなれない。
ただ、買う。
マウスカーソルを動かす。
一つのタブに、カーソルを合わせる。
もう、これでいい。
心が動いた方。
それだけだ。
カートに入れるボタン。
クリック。
「カートに追加されました」
もう、止まらない。
レジへ進む。
住所入力。
支払い方法選択。
確認画面。
注文確定ボタン。
指が震える。
クリック。
「ご注文ありがとうございました」
終わった。
私の戦いが、終わった。
時計を見る。深夜5時42分。
ほぼ朝。
翌朝:罪悪感との朝食
朝7時。起きた。
3時間しか寝てない。
スマホを見る。
メールが来てる。
件名「ご注文ありがとうございました」
本当に買ったんだ。
嬉しいような、怖いようような。
1週間後:運命の開封
ピンポーン。
宅配便。
来た。
箱を受け取る。
重い。
でも、重さが嬉しい。
これが、7万円の重さ。
いや、これが、私の決断の重さ。
リビングのテーブルに置く。
箱を見つめる。
まだ開けない。
この瞬間を、もう少し楽しみたい。
シュレーディンガーの猫。
箱を開けるまで、中の服は「最高の状態」と「がっかりする状態」が重なり合っている。
開けたら、確定する。
怖い。
でも、開けなきゃいけない。
開ける。
中から、もう一つの箱。
ブランドのロゴが入ってる。
高級感。
その箱も開ける。
薄紙に包まれてる。
丁寧。
薄紙を開ける。
あった。
これだ。
試着:運命の再会
試着する。
鏡の前に立つ。
やっぱり、いい。
公式サイトで見たときより、いい。
試着したとき(妄想)より、いい。
本当に、よかった。
この選択は、間違ってなかった。
鏡の中の私が、少し誇らしげに見える。
でも。
心の片隅で、もう一つの服が泣いている。
買わなかった方。
選ばれなかった方。
あの服も、良かった。
あの服も、欲しかった。
「ごめん」
誰に言ってるのか、自分でもわからない。
そして再び公式サイトの前で
給料日。
深夜2時。
私はまた、パソコンの前にいる。
画面には、一つのタブが開かれている。
買わなかった方の、公式サイト。
あの服が、まだそこにある。
「カートに入れる」ボタンも、そこにある。
また、悩むのか。
また、眠れない夜を過ごすのか。
でも、いい。
これが、私の人生だ。
マウスカーソルが、動き出す。
P.S. 結局どっちを買ったかって?それは秘密です。でも来月、画面の前でまた悩んでます。そういうことです。
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